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日本の浮世絵などで知られる伝統技法【木版画】とは? ④

伝統木版画における「摺師」の役割

版木に絵具を広げて和紙に摺りこみ、色を重ねて作品を仕上げるのが「摺師(すりし)」です。
摺師は一度に何百、何千もの枚数の版画を、すべて同じ色、同じ摺り方、同じ品質で作品として仕上げるため、微細な差異も見逃さない鋭い感覚が必要です。
特に絵具を調合して版下絵の通りに色を再現することは、無限の色の組み合わせから的確な色と分量を選ぶことが重要であり、長い経験によって養われていきます。
道具の使い道や力加減を工夫することで摺り方は多岐にわたり、迫力ある表現や繊細なタッチを摺り分けるのは、木版画の技法を熟知した職人ならではの仕事です。

「摺師」の仕事 和紙に摺って仕上げる

絵具と和紙を準備する
刷りに入る前に和紙と「顔料(がんりょう)」などの絵具を準備します。
和紙を並べて水を含ませた刷毛(はけ)で表面をなでて軽く湿らせ、絵具が和紙の繊維の層に入りやすくなるよう「湿し(しめし)」を行います。
同様に湿した厚紙に挟んで乾燥を防ぎます。
絵具は版木に刻まれたパーツと版下絵の配色を見比べ、絵具を摺り込む和紙自体の色合いや染み込み具合などを計算して調合します。
不溶性の着色粉末である顔料を使用する場合は、和紙に顔料を定着しやすくするために「膠(にかわ)」を混ぜます。
これら絵具の調合の分量は記録されず、同じ作品を摺るときは改めて出来上がった木版画と見比べて色作りを行います。

絵具を調色する

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木版画制作工程 アダチ版画製作所HPより

摺り(試し摺り)

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木版画制作工程 アダチ版画製作所HPより

いよいよ摺りの工程です。
版木の表面を刷毛で軽く湿らせ、調合した絵具を和紙に定着させるための「のり」を乗せ、刷毛で全体に広げて絵具が乾く前に手早くムラが無いよう均一に整えます。
余分な汚れが周囲についていないか確認し、ずれないように湿した和紙を見当を軸に版木に乗せます。
そして和紙を版木に押し当てるようにバレンを細かく動かしながら、和紙の繊維の間に色を含ませていきます。
色が入りきると素早く版木から和紙を剥がし、版下絵と色を見比べて差異がないか確認します。
色が異なる場合、再び色を調整して試し摺りを行い、版下絵の色と合わせて本摺りに入ります。

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木版画制作工程 アダチ版画製作所HPより

絵具を刷毛で広げる

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木版画制作工程 アダチ版画製作所HPより

バレンで摺る

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木版画制作工程 アダチ版画製作所HPより
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木版画制作工程 アダチ版画製作所HPより

色の出方を調整する

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木版画制作工程 アダチ版画製作所HPより

本摺り

本摺りでは、試し摺りで確認した摺り方や色合いをもとに、数百枚単位で一色ごとに摺りを重ね、それぞれの版ごとに同じ調子で摺り続けていきます。
こうして全ての版木に彫られた色パーツを一色ずつ和紙に摺り重ねることで、一枚の木版画作品が出来上がります。